ピアノの外装についた指紋やホコリ、気になりますよねぇ。
とくに黒いピアノは汚れが目立ちやすく、すっきりさせたいのが人情というもの。
そこで「とりあえず濡れたタオルで拭いてしまおう」と思ったことはありませんか?
ちょっとお待ちください!
実は、ピアノの外装塗装は種類によって水拭きはやめたほうがいいものがあります。
塗装に合わない方法でお手入れを続けると、艶が曇ったり、表面がひび割れたり、最悪の場合は塗装が剥がれてしまうなんてことも……
この記事では、いろいろな年代やメーカーのピアノを扱ってきた調律師の立場から、塗装の種類と見分け方、素材別の正しいお手入れ方法を解説します。
日々のお手入れの参考になれば幸いです。
30秒でわかる!この記事のポイント
- ポリ塗装(現代の国産ピアノの大多数)は、固く絞った水拭きOK。
- ラッカー塗装・木目仕上げはデリケート。基本は乾拭きのみ。
- 家具用クリーナーやアルコールは全塗装でNG!
- 演奏後にはマイクロファイバータオルで乾拭き、一週間に一回ほどはピアノ用ワックスでピカピカに。
まず確認|あなたのピアノの外装塗装はどのタイプ?
ピアノの外装に使われる塗装は、大きく3つに分類できます。お手入れの前に、まずご自身のピアノがどのタイプかを確認しましょう。
ポリ塗装(ポリエステル・ポリウレタン)
現代のピアノの95%以上を占める、分厚く硬い近代的なプラスチック系塗装です。1970年代以降に製造されたヤマハ・カワイをはじめとする国産ピアノ・アジア製ピアノであれば、ほぼ間違いなくこの塗装です。明るい艶感やぱきっとした光沢が特徴ですね。

メリット
・とにかく頑丈
- 非常に硬くて丈夫です。日常的な汚れや指紋がつきにくく、お手入れがしやすいのが最大の特徴です。
- 艶が長持ちし、経年での色あせや変色がほとんどありません。
デメリット
・補修の手間
- 硬いがゆえに、強い衝撃を受けると「ガラスのようにチップ(欠け)」が生じる場合があります。
- 深い傷がついた場合、研磨して目立たなくすることが難しく、傷埋め修理などが必要になります。
・やや色味に劣るか(主観によりますが)
- ラッカー塗装は深い艶感があるのにたいして、やや表面的な、悪く言えばギラギラした感じになりがちです。
- とはいえ鏡のように光り輝く外装も美しいのでデメリットにするのはちょっと言いすぎかもしれませんね。
ラッカー塗装
欧米のピアノや1960年代以前の古い国産ピアノに多く見られる、薄くデリケートな伝統的塗装です。現行の欧米高級モデル(スタインウェイなど)にも使われています。ギターなどでも高い価格帯のモデルにはラッカー塗装が施されるとか。
メリット
・鳴りがいい(とされている)
- 塗膜が薄いぶん、木材の鳴りを妨げにくいといわれています。高級ギターなどではしばしばラッカー塗装が好まれるようです。
- ただ、このあたりについては技術者や研究者でもいろいろな意見があるようで、統一見解がなされてないのも事実……
※個人的にはあまり変化がないような…?
・独特の艶感や豊富な仕上げ塗装の種類
- 濡れたような艶感、深みのある色合いがラッカー塗装の魅力です。(黒仕上げの場合)
- 半艶や艶消しなどさまざまな塗装手段があり、木目を見せるものや独特の風合いに仕上げられます。
デメリット
- 水分・溶剤・アルコールに弱く、変色や膨れの原因になりやすく、比較するとやや弱い塗装といえます。
- 経年で「ウェザーチェック(クモの巣状の細かいひび割れ)」が発生することがあり、ゴム製品などが長時間接触していると劣化することも。
カシュー塗装(レアケース)
漆(うるし)に似た性質を持つ、カシューナッツの殻から作られた日本独自の塗料です。主に1950〜70年代前半の国産ピアノで使われていました。
現行品では間違いなくお目にかかることはない塗装で扱いが難しいのも特徴です。
特徴
- ポリ塗装にはない「吸い込まれるような深い漆黒」とトロッとした独特の艶が特徴。
- 長年の紫外線劣化で、黒が少し退色して赤茶色(飴色)に透けて見えることがある。
- 湿気が多い環境や手入れが悪い場合、表面が少しベタつくことも。
木目仕上げについて
木の質感を生かした仕上げのピアノです。おもにラッカーやウレタン塗装がほどこされています。
半艶や艶消し、鏡面仕上げ、オープンポアなどの仕上げ方法があります。
黒いピアノにくらべて圧迫感がなく、室内に馴染むため最近では木目仕上げのものが人気となっています。

特徴
- 樹種や仕上げによって木目の質感や雰囲気がことなり、好みにあわせたものを選ぶ楽しみがあります。
- ただし、モデルによっては突板(天然木を薄くスライスしたもの)を貼っているだけの場合も。
- 仕上げによっては湿度や汚れの影響を受けやすいためすこし管理に気をつける必要があります。
塗装の見分け方
外装のお手入れには、どの塗装かを知ることが重要です。
塗装によって適切なお手入れ方法がことなるからですね。
「自分のピアノがどの塗装かわからない」という方のために、現場での確認方法をご紹介します。
艶出し塗装(ポリ・ラッカー)の見分け方
ここでは主に黒い塗装で仕上げられたピアノ(日本ではもっとも一般的な塗装のピアノ)の見分け方について解説していきます。
ステップごとに確認していきましょう!
ステップ1:年代とメーカーで推測する
ヤマハやカワイなどのピアノであればこの方法が一番確実かつ楽な方法です。
ピアノの上の蓋を開けたり、仕様書を確認して、型番や品番をチェックします。
その情報をネットで検索しましょう。
そうすればほぼ確実に仕様が判明します。
- 1970年代以降の国産・アジア製ピアノ(ヤマハ・カワイなど) → ほぼ間違いなくポリ塗装
- 1960年代以前の古いピアノ、または欧米の輸入ピアノ → ラッカー系の可能性が高い
もしウェブ上に情報がない場合は、GeminiやChatgptなどで確認するのもいまではありかもしれません。
(ただし誤情報が提示されることもあるので自己責任にてお使い下さい)
この方法で分からない場合は、見た目の特徴をチェックしてみましょう。
ステップ2:触感と傷のつき方で「ポリかラッカーか」を判断する
| ポリ塗装 | ラッカー塗装 | |
|---|---|---|
| 触感 | ガラスのように硬く冷たい | やや温かみがある |
| 反射 | 鋭くクッキリ | 少し柔らかめ |
| 衝撃を受けたとき | 白くチップ(欠け)する | 木材と一緒にグシャッと凹む |
| ひび割れ | ほとんどない | ウェザーチェック(クモの巣状)が出ることがある |
ただし、見た目や質感だけで完璧に見分けるのは難しく、熟練した目が必要になります。(個人的にも見分けられないケースがあります)
修理現場レベルでは、溶剤(アセトンやエタノールなど)を使って反応から塗装を確定させることが可能ですが、ご家庭では修復不能になってしまうこともありますので、くれぐれもお使いにならないでください!
ここで判別が難しい場合は、最終手段、裏技を使いましょう!
ステップ3:ブラックライトを当てて「反射」を確認する
ブラックライト(紫外線を照射するライト)を使用します。
いまではレジン工作用に100円ショップでも購入できます。便利ですねぇ。
塗面にブラックライトを照射してみましょう。
ラッカー塗装の場合
- 反応:光る(蛍光反応を示す)
- 見え方: 古いニトロセルロースラッカーは、ブラックライトを当てると、黄緑色や白っぽくボンヤリと発光(蛍光反応)します。また、さらに古いヴィンテージピアノに使われるフレンチポリッシュ(セラックニス)の場合は、鮮やかなオレンジ色や黄色に光るのが大きな特徴です。これらは自然由来の樹脂が紫外線に反応して起きる現象です。イメージとしては塗面が反射せずに光を吸い込むような状態になります。
ポリ塗装(ポリエステル・ポリウレタン)の場合
- 反応:光らない(ライトの色を反射するだけ)
- 見え方: 現代の化学合成されたプラスチック系の塗膜は、基本的に蛍光反応を示しません。ライトの青紫色の光が表面にそのまま反射して見えるだけで、塗料そのものが内側からボワッと光る(発光する)ような感覚はありません。
木目仕上げの見分け方
木目のピアノは、さらに細かく確認することで適切なお手入れ方法がわかります。
ステップ1:指先で触って「導管(木の凹凸)」を感じるか確認する
- 木の筋(凹凸)を感じる → オープンポア仕上げ(塗膜が非常に薄い)。水分には特に注意が必要。
- ツルツル・スベスベしている → 表面は透明な塗料で覆われている。ステップ2へ。
ステップ2:光の反射で「艶」を確認する
スマホのライトを斜めから当てます。
- ライトがぼんやり滲む → 半艶・艶消し(サテン/マット)仕上げ
- ライトがクッキリ映り込む → 艶出し(ハイグロス)仕上げ
ステップ3:年代で塗料を推測する
艶出し仕上げの場合、塗料が「ポリ系(硬い)」か「ラッカー系(デリケート)」かは一般の方には判断困難です。製造年代を参考に推測してください(艶出し塗装の見分け方・ステップ3と同様)。

塗装別|正しいお手入れ方法
ポリ塗装の場合
普段のお手入れは乾いた柔らかい布(マイクロファイバータオルがおすすめ)での乾拭きで十分です。
指紋や汚れが気になるときは、水で濡らして固く絞った布で優しく拭き、すぐに乾いた布で水分を拭き取ります。
絞り方のコツ:よく絞ったあとに、乾いた布2枚で挟み込んでもう一度絞るのがおすすめです。「え、こんなにカピカピでいいの?」というくらい絞れます。それで大丈夫です。
汚れがひどいときや長時間演奏した後は、ピアノ専用クリーナーの使用もおすすめです。
ただし、木目のものに使用できないケースもありますので、注意事項はよく確認してくださいね。
ラッカー塗装・カシュー塗装の場合
基本は乾拭きのみです。
どうしても落ちない汚れがある場合は、超固く絞った布で軽く拭く程度にとどめ、すぐに乾拭きしてください。
布の絞り方:乾いた布2〜3枚で挟み込んで絞り、水分をほぼ完全に除いた状態が理想です。
クリーナーの使用は避けた方が無難です。ラッカー・カシュー対応の専用品がなかなか見当たらないのが実情で……
木目仕上げの場合
乾拭きのみです。水分は厳禁。
柔らかいマイクロファイバータオルでホコリを優しく払うだけで十分です。「もう少し汚れを落としたい」と思っても、水や洗剤は使わないようにしましょう。
汚れがひどい場合
長期間にわたって油や手の汚れなどがついたままですと、表面にこびりついてしまい艶が失われることがあります。
どうしても汚れをとりたい! と言った際には以下のお掃除を試してみてください。
つよい汚れをとる方法(中性洗剤)
- まずはぬるま湯を用意します。桶にたっぷり張るくらいがベスト。
- 中性洗剤をぬるま湯の中に入れます。小さじ1から2くらいの少量でオッケー。これで洗剤液ができます。
※中性であるのを確認してください! 弱酸性や弱アルカリだと塗装を痛める危険があります。 - マイクロファイバータオルなど柔らかい布を洗剤液に浸し、しっかりと固く絞ります。
※しぼったあとの布からしずくが垂れないようにしましょう。 - 汚れが目立つところを拭きあげます。
※洗剤の泡などがついていないか確認してください。もしついていたら濃すぎるかも。 - 洗剤液を拭きとるため、よくしぼったマイクロファイバータオルなどで水拭きをします。
※これもよく絞ること。布の絞り方を参照してください。 - 最後にしっかりと乾拭きします。水滴などを残さないようにすみずみまで拭きあげましょう。
- 仕上げにピアノ用ワックスを塗り広げれば完璧です!
つよい汚れをとる方法(アルカリ電解水※注意!)
※ここではアルカリ電解水を使ったクリーニング方法をご紹介していますが、塗面によっては適さない場合があります。
木目や漆塗りのものには使わないようにしてください!
お試しの場合は自己責任となりますのでご注意ください(塗面が適しているかわからない場合には調律師に相談してくださいね)
- アルカリ電解水を用意します。
※可能であればピアノ専用のものを用意してください。(ピアノシャンプーなど) - マイクロファイバータオルにアルカリ電解水をつけます。
※びちゃびちゃにならないように注意! - 汚れが目立つところを拭きあげます。汚れがとれていけばオッケー。
※変化がない場合、無理やり拭いたりするのはやめましょう! 塗面が痛むことがあります。 - 固く絞ったタオルでアルカリ電解水をぬぐいます。
- 最後にしっかりと乾拭きします。水滴などを残さないようにすみずみまで拭きあげましょう。
- 仕上げにピアノ用ワックスを塗り広げれば完璧です!
日頃のお手入れについて
- 練習後のお手入れ
ピアノを使い終わったら譜面台や鍵盤蓋周りをマイクロファイバータオルで乾拭きしましょう。これでほとんどの汚れは除去可能です。 - 一週間に1回のお手入れ
ピアノ用クリーナーやワックスで拭くと艶感が維持できます。 - 汚れが強いときのお手入れ
中性洗剤やアルカリ電解水などを活用して磨きます。
※ただしごしごし強く拭いたり、木目ピアノには使わないようにしてください。
やってはいけないNG行動
濡れた布でそのまま拭く
必ず固く絞った状態で使いましょう。絞らずに濡れたままの布で拭くと、水分が隙間から内部に入り込み、木製部品の膨張やカビの原因になります。
とくに木目仕様で艶感がないものは水気は絶対厳禁です。表面が傷んだり、塗装が弱ることがるため乾拭きを徹底しましょう。
アルコール系の製品を使う
鍵盤と同様、外装へのアルコール使用も厳禁です。ラッカー、ポリウレタン塗装はアルコール耐性が低く、化学反応を起こして溶解し「白化現象」がおこるリスクがあります。また、塗面そのものが柔らかくなり、変色や剥がれの原因になることも。ポリエステル塗装は頑強なのですぐにアルコールで変色することはありませんが、ワックス成分が除去されて艶が落ちたり、細かい傷にアルコールがしみ込んで長期的に塗膜の変質やひび割れを引き起こす可能性があります。
外装をごしごし擦る・研磨剤を使う
汚れが落ちないからといって強くこすらないようにしましょう。タオルの繊維であっても強く押しつけると細かい傷を作ってしまいます。
ピアノの表面に小さな傷がつくと艶が失われてしまいくすんだような状態になってしまします。
また、塗面の状態が分からない状態で研磨剤(コンパウンド)などを使うのも避けた方がベター。
表面の状態によって適切な粒度のコンパウンドがあるので、合わないものを使うとこちらも曇ってしまうことがあります。
おすすめのお手入れグッズ
マイクロファイバータオル
どの塗装にも使える万能アイテム。柔らかい素材なので塗装面を傷つけにくく、乾拭き・水拭きどちらにも使えます。ホームセンターや100円ショップでも入手可能で、複数枚用意しておくと便利です。
ピアノ専用クリーナー(ポリ塗装向け)
ポリ塗装のピアノには、専用のクリーナーが効果的です。
黒い艶のあるピアノであればほとんどメーカーで使用可能です。
楽器店やネットでも気軽に購入可能です。
ただし、研磨剤が入っているものは避けたほうが良いでしょう。塗装の状態によっては艶感が失われるリスクがあります。
・ピアノポリッシュ(各メーカー品) ヤマハなど各メーカーからピアノ専用のポリッシュが販売されています。塗装面を傷つけずに汚れを落とし、艶を保ってくれます。楽器店でご確認ください。※ラッカー・木目仕上げには使用できませんのでご注意を。
まとめ
ピアノ外装のお手入れで最も大切なことは、「塗装の種類に合った方法を選ぶ」ことです。
| 塗装タイプ | 水拭き | クリーナー |
|---|---|---|
| ポリ塗装 | ○(固く絞れば) | ○(専用品のみ) |
| ラッカー・カシュー | ▲(超固絞り+すぐ乾拭き) | △(専用品があれば) |
| 木目仕上げ | × | × |
どの塗装でも共通して言えるのは、乾拭きが基本で、水やクリーナーを使う場合は控えめに、ということ。そしてアルコール・住居用洗剤は厳禁です。
もし汚れが強い場合には、中性洗剤やアルカリ電解水などを試してもいいでしょう。
毎日少しだけ気にかけるだけで、大切なピアノの外装は長くきれいな状態を保てます。
美しく仕上げられたピアノの外装、ぜひ綺麗な状態を保って快適なピアノライフをお楽しみください!
